山家集をよむ(6) ― 2024年03月19日 15:57
(51) 雲なくて朧なりとも見ゆるかな霞かかれる春の夜の月
雲ひとつなくても、春の夜の月は霞に包まれて朧に見えます
Even if there is not a single cloud, the
moon on a spring night looks hazy, shrouded in mist.
(52) 山賤の片岡かけて占むる庵のさかひに見ゆる玉の小柳
山の斜面に掛けた猟師小屋の横に美しい柳の若木が生えています
A beautiful young willow tree grows next to
a hunter's hut on the slope of a mountain.
山賤(やまがつ):樵、猟師など。
玉の小柳:美しい柳の若木
(53) なかなかに風のほすにぞ乱れける雨に濡れたる青柳の糸
青柳の糸のような枝は風が干そうとしても乱れるばかりで雨に濡れそぼっています
Even when the wind tries to dry the stringy
branches of the young willow, they are only disturbed and soaked in the rain.
なかなかに:かえって
ほす:乾かす
(54) 見わたせば佐保の河原に繰りかけて風に縒らるる青柳の糸
見渡すと青柳の糸が佐保の河原にあたかも掛けられて風に撚られているみたいです
Looking around, it seems that the threads
of the young willow are being hung on the riverbank of Saho and being twisted
in the wind.
佐保:奈良市北部の地名
縒る(よる):撚る
(55) 水底に深き緑の色見えて風になみ寄る川柳かな
水底に見える深い緑色は、おそらく風に吹かれている川辺の柳でしょう。
The deep green color seen at the bottom of the
water is probably a willow by the river in the wind.
花を待ちて他を忘る
(56) 待つにより散らぬ心を山桜咲きなば花の思ひ知らなん
開花を待ちわびていた私の心を知るなら、山桜よ散らないでおくれ
If you know my heart, having waited for you
to bloom, please don't scatter, wild cherry blossoms.
(57) 誰かまた花を尋ねて吉野山苔踏み分くる岩つたふらん
誰かまた苔を踏み分け岩をつたって吉野山の花を尋ねる人があるでしょう
Someone will step through the moss and
climb the rocks to find the flowers of Mt. Yoshino.
(58) 今さらに春を忘るる花もあらじやすう待ちつつ今日も暮らさん
言うまでもなく春を忘れる花はないのだから安心して今日も暮らしましょう
Needless to say, no flower forgets spring,
so let's live today with peace of mind.
やすう:安心して
(59) おぼつかないづれの山の峰よりか待たるる花の咲きはじむらん
どの山の峰から花は咲き始めるだろうか気がかりなことです
I wonder which mountain peak the flowers
will start blooming from.
おぼつかな:気がかりな
(60) 空に出でていづくともなく尋ぬれば雲とは花の見ゆるなりけり
当てもなく庵を出ていづくともなく尋ね歩いていると桜の花が雲のように見えました
As I wandered aimlessly out of the
hermitage, the cherry blossoms looked like clouds.
空に:当てもなく
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