山家集をよむ(39) ― 2025年01月19日 11:05
(391) 宵の間の露にしほれてをみなへし有明の月の影にたはるる
宵の露にうなだれる女郎花ですが、明け方には月影を楽しんでいます
The ominaeshi are drooping with
evening dew, but at dawn they are enjoying the moonlight.
たはる:色恋に溺れる。たわむれる。女郎花を後朝(きぬぎぬ)の風情にみたてて
(392) 庭さゆる月なりけりなをみなへし霜にあひぬる花と見たれば
霜に覆われた花のように見えますが、実は月明かりに照らされた庭に咲く「オミナエシ」の花です
Although they look like flowers covered in frost, they are actually ominaeshi flowers blooming in a moonlit
garden.
(393) 月のすむ浅茅にすだくきりぎりす露の置くには秋を知るらん
澄んだ月明かりの下、草原にコオロギが集まります。露を見て秋が来たことを知るでしょう。
The crickets gather in the grass field under the clear moonlight. They will know that autumn has come, seeing
the dew.
きりぎりす:現在のコオロギを指す
(394) 露ながらこぼさで折らん月影に小萩が枝の松虫の声
露を付けたまま月影とともに萩の枝を折りましょう。鈴虫もそのまま枝に止まらせて。
Let's break off the bush clover branch with the dew still on it and the moonlight. Let the bell crickets land on
the branch
as well.
松虫:現在の鈴虫を指す
(395) わがよとや更けゆく空を思ふらん声も休まぬきりぎりすかな
更けゆく空を我が夜だとや思うのでしょうか、コオロギの声が休むことはありません
Perhaps it thinks the darkening sky as its
own night. The voice of crickets never rest.
(396) 夕露の玉しく小田の稲筵かぶす穂末に月ぞすみける
田の稲筵に夕露の玉が付き重ね伏す稲穂の先に月が映っています
The moon is reflected on the rice mats in
the field, where beads of evening dew have formed.
稲筵(いなむしろ):実った稲が倒れ伏す様を表す
(397) たぐひなき心地こそすれ秋の夜の月すむ峯の小牡鹿の声
秋の夜に月が照らす山で鹿の声を聞くのは、比類のない気分です
It gives an incomparable feeling to hear the voice of stags in the mountain, where the moon sheds light on an
autumn
night
小牡鹿(さをしか):雄鹿
(398) 木の間洩る有明の月のさやけきに紅葉をそへてながめつるかな
木の間から洩れ見える夜明けの月のさやけさを紅葉をそへてながめ続けています
I continue to gaze upon the clear dawn moon
peeking through the trees, along with the autumn leaves.
(399) 立田山月すむ峯のかひぞなきふもとに霧の晴れぬかぎりは
立田山の峰の澄んだ月も麓の霧が晴れないかぎりは甲斐がありません
The clear moon over the peak of Mt. Tatsuta
is worthless unless the fog at the base clears.
立田山:奈良県の竜田山
(400) いにしへを何につけてか思ひ出でん月さへ曇る夜ならましかば
夜に月が雲に隠れていたら、過去を思い出すために何を頼りにすればよいのでしょうか
If the moon was hidden by clouds at night,
what can I rely on to help me remember the past?
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