山家集をよむ(42) ― 2025年05月07日 16:46
夜に聞く雁
(421) 烏羽に書く玉章の心地して雁なきわたる夕闇の空
夕闇の空を雁が渡っていくのは、烏の羽に手紙を書くような心地です
Watching wild geese fly across the twilight
sky feels like writing a letter on a crow's wing.
烏羽(からすば)
玉章(たまづさ):手紙
(422) 白雲をつばさにかけてゆく雁の門田の面の友慕ふなり
白い雲の上を飛ぶ雁は田圃の仲間を恋しがります。
The geese flying above the white clouds
miss their friends in the rice fields.
門田(かどた):門前の田。家の近くにある田。
(423) 玉章のつづきは見えで雁がねの声こそ霧に消たれざりけれ
霧に覆われて手紙のつづきは見えないけれど雁の声は消されることはありません
The fog hides the rest of the letter, but
the cries of the wild geese are never muted.
消たれ(けたれ)
(424) 空色のこなたをうらにたつ霧のおもてに雁のかくる玉章
空色のこちら側を裏にして霧のおもてに雁が手紙を書いています
The wild geese are writing letters on the
surface of the mist, with the sky-blue side facing us.
(425) うづら鳴くをりにしなれば霧こめてあはれさびしき深草の里
うずらが鳴くころ、さびしい深草の里に霧がたちこめます
When the quails are crying, the mist fills
the lonely village of Fukakusa.
(426) 名残り多みむつごと尽きで帰り行く人をば霧もたち隔てけり
名残多い親密な会話の後、客は霧に隔てられるようにして帰っていきます。
After a lingering and intimate
conversation, the guests leave, separated by a mist.
山家の霧
(427) たちこむる霧の下にもうづもれて心晴れせぬ深山辺の里
世に埋もれたる山の辺の村は濃い霧にも埋ずもれて、私の心は晴れない。
The mountain village, lost in the world, is
shrouded in thick fog, and my heart is heavy with emotion.
(428) 夜をこめて竹の編戸に立つ霧の晴ればやがてや明けんとすらん
夜をこめて竹の編戸を覆っていた霧が晴ればやがて夜が明けるでしょう
When the fog that has been covering the
bamboo door all night clears, dawn will soon come.
編戸(あみど)
(429) しだり咲く萩の古枝に風かけてすがひすがひに牡鹿なくなり
咲き誇る萩の古枝が風に揺れる中、雄鹿たちは交互に鳴き声を上げます。
As the old branches of blooming bush clover
sway in the wind, the stags take turns mooing.
古枝(ふるえ)
すがひ:「斜交い」か。
(430) 萩が枝の露ためず吹く秋風に牡鹿鳴くなり宮城野の原
宮城野の原野では、萩の枝に露が付かないほどの強い秋風が吹き、雄鹿の鳴き声が聞こえてきます。
In the wilderness of Miyagino, the
cries of stags can be heard on the autumn wind, which blows so hard that dew
does not form on the bush clover branches.
宮城野:宮城県・仙台市の東部にあった原野
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