山家集をよむ(44)2025年07月25日 10:37

     人を尋ねて、小野にまかりたりけるに、鹿の鳴きければ

(441) 鹿の音を聞くにつけても住む人の心知らるる小野の山里

鹿の声を聞いて、小野の山里に住む友人の心を知ります

Listening to the cries of the deer, I understand the heart of my friend who lives in the mountain village of Ono.

小野:洛北大原の小野

 

     独聞擣衣(ひとりたういをきく)

(442) ひとり寝の夜寒になるにかさねばや誰がために擣つ衣なるらん

一人で寝ていると寒くなって衣を重ねて着たくなります。衣を打つ音がするのは誰のためでしょうか

When I sleep alone, it gets cold and I want to put on more clothes. Who is making the sound of clothes clapping?

擣つ(うつ):擣衣。砧で衣を打つこと。

 

(443) 小夜衣いづくの里に擣つならん遠く聞ゆる槌の音かな

夜、いづこの里で衣を打っているのだろうか。槌の音が遠く聞こえます

I wonder in which village people are hitting clothes at night. I can hear the sound of a hammer in the distance.

 

     年頃申しなれたる人の、伏見に住むと聞きて、尋ねまかりたりけるに、庭の草、

道見えぬほどに茂りて、虫の鳴きければ

(444) 分けて入る袖にあはれをかけよとて露けき庭に虫さへぞなく

分け入ると袖が露に濡れるほどに草が茂る哀れをさそう庭に虫さえも鳴いています

As I entered the garden, the grass grew so thick that my sleeves got wet with dew, and even the insects were chirping in the pitiful garden.

あはれをかける:あはれに思う。

露けし:露に濡れて湿っぽい。涙がちである。

 

(445) 夕されや玉おく露の小笹生に声初鳴らすきりぎりすかな

In the evening, on the small bamboo covered with dew, a grasshopper begins to sing its first song.

小笹生(こざさふ):小笹の生えているところ。

 

(446) 秋風に穂末なみよる刈萱の下葉に虫の声乱るなり

The autumn wind is rustling the tips of the grass and the lower leaves are filled with the sounds of insects.

刈萱(かるかや):ススキに似たイネ科の多年草。

 

(447) きりぎりす鳴くなる野辺はよそなるを思はぬ袖に露のこぼれる

きりぎりすが鳴くのは私とはかかわりのない野辺なのに、思いがけず袖に露がこぼれます

The grasshoppers are singing in a field that has nothing to do with me, but dew unexpectedly falls on my sleeve.

 

(448) 秋風のふけゆく野辺の虫の音にはしたなきまで濡るる袖かな

秋風が吹く野原の夕暮れに虫の音が聞こえ、袖が恥ずかしいほど濡れます

At dusk in the autumn wind blowing through the fields, I can hear the sounds of insects and my sleeves get 

embarrassingly wet.

 

(449) 虫の音をよそに思ひて明かさねば袂も露は野辺にかはらじ

もし虫の音を聞いて夜を明かすと、私の袂は野の露のようになります

If I stay up all night listening to the insects, my sleeves will be like dew on the field.


(450) 野辺に鳴く虫もやものは悲しきに答へましかば問ひて聞かまし

野辺に鳴く虫も、もの悲しいのでしょうか。もし虫が答えてくれるならば、問うて、答えを聞きたいものです

Are the insects chirping in the fields also sad? If they could answer, I would like to ask them questions and hear their answers.



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大阪の高校を退職して、2011年東日本大震災の直後に山梨県小淵沢に移住しました。物理の教員歴33年の間に、地震の話や原子力の話はしたものの、防災教育をやってなかったことを痛感して、以後、防災教育に関する活動を継続しています。
これまでCCnetのブログ(「一鴨日記」)に投稿していましたが、編集機能の問題があって「アサブロ」に引っ越しました。2022年8月31日以前の投稿記事については、旧「一鴨日記」を御覧ください。

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