山家集をよむ(5)2024年03月16日 20:44

(41) 梅が香にたぐえて聞けば鶯の声なつかしき春の山里

漂う梅の香りの中でウグイスの声が聞こえる春の山麓の懐かしき里よ。

A nostalgic village at the foot of the mountains in spring, where you can hear the voices of uguisu amidst the 

scent of plum blossoms.

たぐえて:添えて

 

(42) 作りおきし苔のふすまに鶯は身にしむ梅の香や匂ふらん

鶯は苔の寝床に横たわっていると、梅の花の香りが体に染み込むでしょう

When an uguis lies on a bed of moss, the scent of plum blossoms will permeate its body.

ふすま:夜具

 

    旅の泊の梅

(43) ひとり寝る草の枕の移り香は垣根の梅の匂ひなりけり

一人旅寝の草の枕には垣根の梅の移り香が匂います

In the travel the scent of plum blossoms in the hedge smells on my sleeping grass pillow.

 

    古き砌の梅

(44) なにとなく軒なつかしき梅ゆゑに住みけん人の心をぞ知る

なんとなく懐かしくなるような軒の梅を見ると住んでいる人の心が知れます

Seeing the plum blossoms over the eaves, which somehow make me feel nostalgic, I can understand the minds 

of the people who live there.

砌(みぎり):古い家の軒端

 

山家の春雨と云う事を、大原にてよみけるに

(45) 春雨の軒たれこむるつれづれに人に知られぬ人のすみかか

五月雨の雫が軒に垂れている庵に憂き世を離れて人に知られず住む人がいる

There is a person who lives in a hermitage where the drops of spring rain fall from the eaves, without being 

known by others.

 

(46) なにとなくおぼつかなきは天の原霞に消えて帰る雁がね

大空を横切って霞のかなたに消えていく雁を見ているとなにがなしに心許ない気持ちになる

When I watch a wild goose fly across the sky and disappear into the mist, I feel somehow unstable.

天の原:大空

 

(47) 雁がねは帰る道にやまよふらん越の中山霞隔てて

越の中山が霞に覆われているので、雁は帰る途中で迷ってしまうかもしれません

Nakayama of Koshi is covered in mist, so the geese may get lost on their way home.

越(こし)の中山:越後国の妙高山

 

(48) 玉章の端書かとも見ゆるかな飛び遅れつつ帰る雁がね

群れに遅れて飛ぶ雁は手紙の追伸のように見えます

A wild goose flying behind the flock looks like a postscript to a letter.

玉章(たまづさ):手紙

端書:追伸

 

(49) 山里へ誰をまたこは喚子鳥ひとりのみこそ住まんと思ふに

かっこうは山里にだれを呼ぼうというのだろう、ひとりで住もうと思うのに

I wonder who kakko will invite to the mountain village, even though I would like to live alone.

喚子鳥(よぶこどり):春の鳥、通説はかっこう。

 

(50) 苗代の水を霞はたなびきて打樋の上にかくるなりけり

稲の苗床の水面を霞が漂い、架け渡された樋を隠します

Mist drifts over the surface of the water in the rice nursery, hiding the bridged gutter.

打樋(うちひ):長く架け渡した樋



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大阪の高校を退職して、2011年東日本大震災の直後に山梨県小淵沢に移住しました。物理の教員歴33年の間に、地震の話や原子力の話はしたものの、防災教育をやってなかったことを痛感して、以後、防災教育に関する活動を継続しています。
これまでCCnetのブログ(「一鴨日記」)に投稿していましたが、編集機能の問題があって「アサブロ」に引っ越しました。2022年8月31日以前の投稿記事については、旧「一鴨日記」を御覧ください。

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