山家集をよむ(31)2024年09月29日 19:52

(311) 播磨潟灘の深沖に漕ぎ出でてあたり思はぬ月をながめん

灘沖の播磨潟まで漕ぎ出して、何も遮るもののない月を眺めてみたい。

I would like to row out to Harimagata off the coast of Nada and view the moon unobstructed.

深沖(みおき)

 

(312) いさよはで出づるは月のうれしくて入る山の端はつらきなりけり

待つほどもなく出る月のうれしくて、山の端に入る月は心残りです

I'm happy when the moon rises without hesitation, but I feel sad when it sets in at the edge of the mountain.

いさよはで:ためらわずに

 

(313) 水の面に宿る月さへ入りぬるは池の底にも山やあるらん

水の面に映る月さへ隠れるのは池の底にも山があるのでしょうか

Even the moon reflected on the surface of the water is hidden. Is there a mountain at the bottom of the pond?

 

(314) 慕はるる心やゆくと山の端にしばしな入りそ秋の夜の月

慕われて心が山の端に傾くものですが、秋の夜の月よ、しばらくは止まっていてください

The heart is drawn to the edge of the mountain, but please, the moon stay still for a while on this autumn night.

 

(315) 明くるまで宵より空に雲なくてまたこそかかる月見ざりつれ

昨夜から明けるまで空に雲なくて、このような月は未だかつて見たことがありません

There were no clouds in the sky from last night until dawn, and I've never seen a moon like this before.

 

(316) 浅茅(あさじ)葉末の露の玉ごとに光つらぬく秋の夜の月

荒れた野原に生える茅の葉先の露玉を秋の夜の月の光がつらぬいています

The moonlight of an autumn night penetrates the dewdrops on the tips of the grass leaves in the barren field.

 

(317) 秋の夜の月を雪かとまがふれば露も霰の心地こそすれ

秋の夜の月を雪と見まがうのなら露を霰と見もするでしょう

If you mistake the moon on an autumn night for snow, you will also mistake dew for hail.

 

(318) 月ならでさし入る影のなきままに暮るるうれしき秋の山里

月の光の他にはさし入る影のないままに暮れる秋の山里のうれしさ

The joy of autumn in a mountain village where the sun sets and there are no shadows except for the moonlight.

 

(319) 清見(きよみ)(がた)月すむ空の浮雲は富士の高嶺の煙なりけり

清見潟を照らす月の空に浮かぶ雲は富士の峰の煙です

The clouds floating in the moonlit sky over Kiyomi-gata are the smoke from the peak of Mt. Fuji.

清見潟:静岡市清水区興津の辺りにあった景勝地

 

(320) 水錆ゐぬ池の面ての清ければ宿れる月もめやすかりけり

錆びのない池の水面は澄んでいて、月の光が目に優しく映ります。

The surface of the rust-free pond is clear, and the moonlight is gentle on the eyes.

水錆(みさび)



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このブログについて

大阪の高校を退職して、2011年東日本大震災の直後に山梨県小淵沢に移住しました。物理の教員歴33年の間に、地震の話や原子力の話はしたものの、防災教育をやってなかったことを痛感して、以後、防災教育に関する活動を継続しています。
これまでCCnetのブログ(「一鴨日記」)に投稿していましたが、編集機能の問題があって「アサブロ」に引っ越しました。2022年8月31日以前の投稿記事については、旧「一鴨日記」を御覧ください。

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