山家集をよむ(21)2024年08月02日 19:33

(201) 空はれて沼の水嵩を落とさずはあやめもふかぬ五月なるべし

空がはれて沼の水嵩が低くならないとアヤメを採ることもできず、軒にアヤメを葺くことができない五月の節句になりそうです

Unless the sky is clear and the water level in the swamp becomes low, I won't be able to collect calamuses and cover the eaves with them for the May festival.

水嵩(みかさ)

あやめ:菖蒲の意。中世では菖蒲と書いて「あやめ」と読んでいた。

 

    高野の中院と申す所に、菖蒲葺きたる房の侍りけるに、桜の散りけるが珍しくおぼえて、よみける

(202) 桜散る宿をかざれるあやめをばはなさうぶとやいうべかるらん

桜の花びらが宿の軒先のショウブを飾っています。これこそハナショウブというべきでしょうか

Cherry blossoms petals decorate the leaves of Shobu in front of the eaves of the guesthouse; should them be 

called Hanashobu?

菖蒲:英語では”calamus”。ここでは菖蒲と花菖蒲を並記するためローマ字表記とした。

 

    坊なる稚児、これを聞きて

(203) 散る花を今日のあやめの根にかけて薬玉ともやいふべかるらん

散る花を今日採ったショウブの根にかけて薬玉とも言うべきでしょうか

I guess you could call it a medicinal ball by pouring the falling flowers on the roots of the calamus you picked 

today.

薬玉(くすだま)

 

    さる事ありて、人の申し遣はしたりける返事に、五日

(204) 折にあひて人にわが身やひかれまし筑摩の沼のあやめなりせば

良い時期に巡り合って、私を採りたてようと思われるのでしょうが、私は筑摩沼の菖蒲のように人に引いてもらおうとは思いません。

I'm sure that you come across at a good time, and want to pick me up, but I don't think I'll be picked up like the calamuses at Tsukuma Swamp.

筑摩(つくま)の沼:現・米原市にあった内湖。

 

   55日、山寺へ人の今日いる物なればとて、しやうぶを遣はしたりける返事に

(205) 西にのみ心ぞかかるあやめ草この世は仮りの宿と思へば

この世は仮の宿と思いさだめて、西の方ばかり見つめる菖蒲です。

I am like a calamus that looks only to the west, thinking that this world is just a temporary accommodation.

山寺へ人の・・:「西行が居る寺へ人が・・」の意。

 

(206) みな人の心の憂きはあやめ草西に思ひの引かぬなりけり

人の心は綾目分かたず憂えるばかりで西方浄土に引かれることはないようです

People's hearts are filled with sorrow and do not seem to be drawn to the Pure Land in the West.

 

(207) 水たたふ入江の真菰刈りかねてむなでに過ぐる五月雨の頃

五月雨の頃は、水嵩が増した入江の真菰を刈ることができず、収穫もなく過ぎていきます

During the rainy season in May, it is impossible to harvest the Makomo in the inlet due to the increased water 

volume, and the time passes without any harvest.

真菰(まこも):イネ科の多年草。

むなで:空手で。収穫しないで。

 

(208) 五月雨に水まさるらし宇治橋や蜘蛛手にかかる波の白糸

五月雨が水位を増して、宇治橋の交差した支柱に白糸のような波がかかっています

The rain in May has increased the water level, creating white thread-like waves on the crossed pillars of Uji 

Bridge.

蜘蛛手(くもで):材木を交差した支柱。

 

(209) 五月雨は岩せく沼の水深み分けし石間の通ひ路もなし

五月雨で、岩が堰き止めた沼が深くなって、かつて通った岩の間の道がなくなりました

Due to the May rains, the swamp that was dammed up by the rocks became deeper, and the path that used to 

pass between the rocks disappeared.

岩せく沼:岩が堰き止めた沼

 

(210) 小笹敷く古里小野の道のあてをまた沢になす五月雨の頃

小野の荒れた古い道は踏み均らされた笹を頼りにしていましたが、5月の雨が降ると雨水が流れ込む沢となります。

The old, rough roads of Ono used to rely on trampled bamboo grass, but during the May rains, they became 

streams with rain water.

古里小野(ふるさとをの):古く荒れた小野の里



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このブログについて

大阪の高校を退職して、2011年東日本大震災の直後に山梨県小淵沢に移住しました。物理の教員歴33年の間に、地震の話や原子力の話はしたものの、防災教育をやってなかったことを痛感して、以後、防災教育に関する活動を継続しています。
これまでCCnetのブログ(「一鴨日記」)に投稿していましたが、編集機能の問題があって「アサブロ」に引っ越しました。2022年8月31日以前の投稿記事については、旧「一鴨日記」を御覧ください。

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